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    朝日新聞文化面「ニュースの本棚・EUとユーロの行方」

    ニュースの本棚 EUとユーロの行方 遠藤乾さんが選ぶ本
    朝日新聞2011年11月20日朝刊文化面
    http://book.asahi.com/reviews/column/2011112000005.html


    ■グローバル化を管理できるか 

     欧州統合の父とうたわれるジャン・モネが、1929年の大恐慌で破産しかけた金融屋だったと知る人は少ない。彼は「金融は政治の文脈で捉えるべき」と自伝で書きのこした。
     ユーロ危機。それは遥(はる)かかなたの経済問題に映る。しかしユーロの歴史は、極めて生々しい政治ドラマでもある。
     デイヴィッド・マーシュが『ユーロ』で追うのはそのドラマだ。この英経済紙の元記者は、ドイツとユーロのベテラン観察者だ。膨大な数のインタビューから、ユーロ史を活写する。
     ユーロは、経済的には、資本が自由に世界を駆けめぐるグローバル化に端を発する。これは、1980年代に開けてしまったパンドラの箱である。結果として脆弱(ぜいじゃく)な国の通貨が次々と襲われ、地域共通通貨、つまりユーロによる安定が志向された。
     他方政治的には、当時西ドイツが差配していた通貨政策に、フランスやイタリアが関与するという権力闘争でもあった。その闘争が実ったのは、ドイツ統一ゆえである。強大なドイツをヨーロッパ通貨という枠で縛るという大義が力をもった。

    ■醸成された危機 
     通貨統合を定めたマーストリヒト条約はそうしてできた。妥協の産物である以上、欠陥があるのは当然だった。通貨を共有できる限り、他国はドイツの言うことは何でも聞いた。財政は自己規律、というルールはこの時にでき、のちに破られた。やがてドイツの競争力だけが突出し、南北で富が偏在しはじめた。危機はそうして醸成された。この経緯は、ユーロ専門家である田中素香の『ユーロ』がわかりやすく説明している。
     ギリシャ発の国債危機は銀行危機と連動し、いまや政治危機となった。終息したかにみえる時期は、小休止でしかない。危機は世界市場に内在する。
     ラグラム・ラジャン『フォールト・ラインズ』(新潮社、1995円)は、市場の危機分析に、いまの日本人にとってもっともわかりやすい地質学のメタファー「断層」を持ち込んだ。
     世界化し強大化した市場は、隠れた断層を見つけだしては拡張し、近くの断層と連動させる。
     EUの断層はいたるところに見いだせる。北欧と南欧。経済専門家主導の政府と議会・民衆。それは緊縮財政と社会保障の断層でもある。

    ■国内外、走る断層 
     もっとも深い断層は、ナショナリズムを飼いならしたはずのEUでも、国家間に走っている。
     ドイツと他国の国債利回りの差、いわゆるスプレッドは、市場が国家間の断層に打ち込む楔(くさび)だ。ユーロ加盟国は、否(いや)が応でも「国」を再認識する。
     また、通貨統合の維持のために要請される緊縮財政は、ユーロ加盟国内の格差を広げる。これは、萱野稔人『ナショナリズムは悪なのか』が日本の文脈で論じるように、貧困に陥った同胞を救え、というナショナリズムにつながりやすい。
     今後EUでもナショナリズムの再興が観察されよう。国家は岩盤のように露出する。ただし他方、グローバル化もまた元気で、資本移動の自由化というパンドラの箱はぱっかり開いたまま。日米含めどの国も、この資本の力を制御できていない。
     国家も世界もグローバル化を規制・管理できない中、曲がりなりにも、地域共同でそれを管理しようとする試みであったEUは、いま厳しい岐路に立たされている。まだまだ続くドラマを注視したい。

     ◇えんどう・けん 北海道大教授(国際政治) 66年生まれ。編著書に『ヨーロッパ統合史』『グローバル・ガバナンスの歴史と思想』など。

     ★この記事に関する関連書籍
    ユーロ 著者:デーヴィッド・マーシュ 出版社:一灯社 価格:¥3360
    ユーロ 危機の中の統一通貨  著者:田中素香  出版社:岩波書店 価格:¥840
    フォールト・ラインズ 「大断層」が金融危機を再び招く 著者:ラグラム・ラジャン 出版社:新潮社 ¥1995
    ナショナリズムは悪なのか 新・現代思想講義  著者:萱野稔人  出版社:NHK出版 価格:¥777
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    遠藤 乾

    遠藤 乾 (えんどう けん)

    北海道大学法学部、法学研究科、公共政策大学院教授(国際政治)

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