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    読売新聞文化面「ヨーロッパの行方」記事(2011年12月5日)

    以下が、読売新聞文化面の論点スペシャル「ヨーロッパの行方」に2011年12月5日に掲載されたインタヴュー記事「統合の利、今も大きい」です。


     EUが実存的危機、つまり生存が問われる危機にあることは否定できない。
     暗い見通しを言えば、経済的危機が社会・政治的危機に転じていく恐れがある。各国が緊縮財政をとり、年金や社会保障を削って国民の生活レベルを下げると、それはEUのせいとなり、市民の間でナショナリズムが高揚する。ギリシャのような国で「借金を返さないことが正義」とする市民的不服従の運動が生まれるだろう。他方、財政が健全なオランダでは、、既に右派政党から「ギリシャをユーロ圏から除外しろ」という意見だけでなく、ユーロ自体に反対だと主張が出始めている。
     EU域内で、自らをまず「ヨーロッパ人」と認識する人は5%に満たない。一番多いのが「国民+ヨーロッパ人」という自己認識。単に「国民」と認識している人たちも多い。ドイツ人がギリシャ人を「同胞だから助ける」というユーロ・ナショナリズムの感覚は極めて弱い。
     しかし、中枢国のドイツでは、南欧の人たちを「パーティーばかりしている困った連中」という偏見でうんざり眺めつつも、政局レベルで「だから切り捨てろ」という主張が優勢になっているわけだはない。そこがまだ救い。域内単一市場の維持が利益につながることや、ドイツ人やフランス人がイタリアに多くの資産を持っていることなど、南欧諸国を支援する実際的なメリットもある。独仏が「欧州統合を前に進める」という政治的意思を持ち続ける限り、危機は乗り越えられる。

     EUは経済的観点だけで捉えるべきでない。私は三つのPで考える。プロスペリティー(繁栄)、パワー(権力)、ピース(平和)。プロスペリティーは確かに危機にあるが、他の世界と対峙する時のパワーとして見れば、EUの枠はなお有益。ドイツといえども一国だけで世界を動かすプレーヤーにはなれないのだ。ピースについては、過去60年、統合の歩みを進め、現に平和を実現してきた歴史がある。こららの要素を考えれば、統合のメリットは今も大きい。

     理念から見れば、EUには補完的原理という考えがある。「より小さい単位が自らの目的を達成できる場合は、より大きい単位は介入してはならない」とする消極的原理と、「小さな単位が自らの目的を達成できない場合は、大きな単位が介入しなければならない」とする積極的原理からなる。もともと軍隊の正規軍と予備軍の関係を指し、のちのキリスト教会の小教区と大教区の関係、市民社会と国家の関係に適用され、今は加盟国とEUの関係に適用されている。この補完的原理は、経済危機にあっても堅固に生きている。EU諸国は一国で達成できない三つのPをEUに託してきた。今後もそうあり続けるだろう。
     
     危機の今、EUに学べというと滑稽に聞こえるかもしれないが、EUの域内市場形成の歩みは、環太平洋経済連携協定(TPP)など、多国間の貿易自由化に直面する日本にも貴重な知恵を与えてくれる。
     EUは1年に5000もの会合を開く濃密な協議体だ。話し合いを重ね、欧州共同体(EC)だった1968年に関税をゼロにし、87年に単一欧州議定書で非関税障壁の撤廃を目標化した。そこで目指したのは、競争的規制撤廃ではなく協調的再規制。交渉の過程で、例えばデンマークは、自国の厳しい環境・食料安全基準を維持し、域内全体の規制レベルを引き上げる原則を他の国に認めさせた。
     こうした経験が欧州に蓄積されていることを忘れては、もったいない。
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    遠藤 乾

    遠藤 乾 (えんどう けん)

    北海道大学法学部、法学研究科、公共政策大学院教授(国際政治)

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