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    過剰反応すれば思うつぼ ノルウェー連続テロの後に

    2011年8月8日付の読売新聞朝刊文化面に掲載された拙稿「過剰反応すれば思うつぼ ノルウェー連続テロの後に」


     舞台は、ふだん退屈なほど平穏なノルウェーだった。去る7月22日、首都オスロの政府庁舎と近郊のウトヤ島で77人もの無辜の市民が殺戮された。これがアンネシュ・ブレイビック容疑者一人による犯行だとすると、単独犯としては史上最大のテロともいわれる。
     中流母子家庭の「ママっ子」として、年少時にムスリム系移民とよく遊んでいた普通の男の子が、いつどの様にテロリストになったかはまだ詳細は分からない。しかし32歳の彼は、どこかで過剰な敵をイスラムに見出し、それに肥大化した自我を当て、何らかのイコン(象徴)を残して幅広い聴衆にメッセージを送る古典的テロリストとなった。
     この手のテロ実行犯にとって、目の前で殺害する個々人にさしたる意味はない。大事なのはイコンやメッセージであり、それに引きつけられる世界の関心だ。
     ブレイビックのイコンは、1518㌻に及ぶ「2083・欧州独立宣言」である。他人のブログや論説を継ぎはぎし、個人史やテロ準備過程を中級英語で綴り、最後に自身の肖像写真を掲げた出来の悪い卒論のようだが、メッセージは明瞭だ。
     中身は、反イスラムと反リベラル左派を基調とし、欧州というキリスト教世界を保全する文化的保守のマニフェストである。「文化的」というのには意味がある。彼は血や人種に基づくヒトラーやネオナチから距離をとる。その上で、教育やメディアを「支配」するリベラル左派と、移民に寛容な多文化主義者へ文化闘争をしかける。それは、近年の欧州新右翼と軌を一にし、9・11後のイスラム嫌いを栄養素としている。
     敬虔でもないのに彼が「キリスト教」という時、それは自身を歴史と地理の中に位置づける格好の道具となる。自称「新テンプル騎士団」創始者は、1683年のウィーン包囲撃退400周年=2083年に向け、新十字軍を提唱。他方、キリスト教を基調とするため反米ではなく、ひろく仏教・ヒンドゥー教国と連携し、欧州へのイスラムの浸食を阻止するという。
     しかし、その黙示録的な予言は、手段として暴力を選んだ段階で挫ける運命にある。またいみじくも彼が感知したように、リベラリズムは根強い。今世紀における反イスラムの輪は、部分的にはイスラムの教義や行為が、表現の自由や男女平等などのリベラルな理念に反すると考えられたために広がったのだ。
     今すべきことは、彼とそのメッセージをよく理解した後、決然と無視することだ。それがテロリストの最も恐れることである。逆に控えるべきは過剰反応だろう。言論を制限し、事態を移民のせいにして「対処」するとき、ブレイビックの肥大化した自我は完結する。

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    遠藤 乾

    遠藤 乾 (えんどう けん)

    北海道大学法学部、法学研究科、公共政策大学院教授(国際政治)

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